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大阪地方裁判所 平成12年(レ)258号 判決 2000年12月04日

控訴人

長渡音一

被控訴人

小泉孝義

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、金四三万〇四七七円及びこれに対する平成一二年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件は、控訴人所有・運転の普通乗用自動車と被控訴人運転の普通乗用自動車(ワゴン車)が信号機による交通整理の行われていない丁字路交差点で衝突した事故について、控訴人が被控訴人に対して、民法七〇九条に基づき車両修理費用の賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実等(証拠により認定する場合には証拠を示す。)

(一)  事故(以下「本件事故」という。)の発生(乙一)

日時 平成七年九月一四日午後一〇時三〇分ころ

場所 大阪府松原市三宅中二丁目一三番三四号先(以下「本件交差点」という。)

車両一 普通乗用自動車(和泉五三ち九四六一。以下「被控訴人車両」という。)

運転者 被控訴人

車両二 普通乗用自動車(宮崎五八な八七八四。以下「控訴人車両」という。)

所有者 控訴人

運転者 控訴人

態様 本件交差点は、南北道路に西からの道路が突き当たる丁字路交差点であるが、北から南へ直進する被控訴人車両が、西から本件交差点に進入してきた控訴人車両と衝突した(乙二)。

(二)  本件訴訟に至る経緯

控訴人と被控訴人は、本件事故の翌日である平成七年九月一五日に、本件事故について話し合った(甲一、弁論の全趣旨)。

その後、控訴人は、平成八年五月三一日、被控訴人を相手方として、本件事故についての調停を羽曳野簡易裁判所に申し立て、同年七月九日に第一回期日が開かれ、その後続行されたが、平成一〇年五月一九日の期日において調停不成立となり、その頃その旨の通知を受けた(弁論の全趣旨)。その後、控訴人は、被控訴人に対し、本件訴訟(平成一二年一月一九日受付)を提起した。被控訴人は、平成一二年二月二五日陳述の答弁書において、本件事故による損害賠償債務につき、事故後三年が経過したとして、時効の援用をした(当裁判所に顕著な事実)。

二  争点

本件の争点は、控訴人の主張する損害賠償請求権につき、消滅時効が完成したか否かである。

(被控訴人の主張)

控訴人は、本件事故の翌日である平成七年九月一五日には、本件事故の相手方が被控訴人であることを知ったものであるが、その後、三年の時効期間が経過しているから、控訴人の損害賠償請求権は時効により消滅した(民法七二四条)。

控訴人は、前記調停が不成立になった旨の通知を受けた日(平成一〇年五月一九日)から二週間以内に調停の目的となった権利につき訴えを提起せず(民事調停法一九条、民法一四九条)、また、一か月以内にも訴えを提起していない以上、調停申立による時効中断の余地はない(最高裁第二小判平成五年三月二六日)。被控訴人が調停期日において損害賠償債務を承認した事実はない。控訴人は、調停手続において無断で期日を欠席するなど、その対応は極めて消極的なものであり、また、本件訴訟の提訴遅延の責任はもっぱら控訴人が負うべきものであって、権利の上に眠る者が保護されないのは当然である。

(控訴人の主張)

被控訴人は、本件調停中、本件の解決については当事者各人の尋問をなすことによって過失割合を決定することを申出て、控訴人はその申出に同意したものであるから、控訴人と被控訴人の間では、裁判による解決を図るという内容の双務契約が成立したものである。

したがって、被控訴人が時効を援用することは許されない。

また、これらの被控訴人の行為は、部分的債務の承認をなしたものと評価できる。

第三争点に対する判断

一  控訴人が本件訴訟を提起したのは、本件事故の相手方が被控訴人であることを知った平成七年九月一五日から三年を経過した後であること、被控訴人が時効を援用したこと、控訴人は本件調停が不成立になった旨の通知を受けた平成一〇年五月一九日から二週間若しくは一か月以内に訴訟を提起しなかったことは、いずれも当裁判所に顕著な事実である。

そこで、控訴人の主張について検討するに、証拠(甲一、乙四)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、調停期日において、自らには全く過失がないとの主張をしていたこと、被控訴人が控訴人に対して、具体的に車両修理費用の一部についてでも支払う旨の約束をしたことはないことが認められる。したがって、被控訴人が自らに損害賠償債務が存することを部分的に承認していたとの控訴人の主張は理由がない。

控訴人は、調停期日において、裁判により本件事件の解決を図るという内容の双務契約が成立したので、被控訴人が時効を援用することは許されないと主張する。しかし、仮に、訴訟により本件事件を解決するとの合意が当事者間に存在したとしても、時効期間が経過した後に時効を援用するということが直ちに信義に反することになるとはいえないし、控訴人は、本件調停が不成立となった後、所定の期間内に訴えを提起することによって、容易に時効を中断することができたにもかかわらず、調停不成立後一年半以上経過してから、本件訴訟を提起したものであり、その間、何ら提訴を妨げる事情が存在したことも認められない以上、被控訴人の時効援用が許されないとする理由はない。

控訴人の主張はいずれも独自の見解であり採用できない。

二  以上により、控訴人の主張する本件損害賠償請求権は、仮に存したとしても、平成七年九月一五日より三年を経過した時点において時効により消滅したものというべきであるから、控訴人の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中路義彦 福井健太 下馬場直志)

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